(ハンターハンター ©冨樫義博/集英社)
こんにちは、サチヲです。

新登場に近いキャラクターの『強さ』を、読者にどう伝えるか?を見るのもめちゃくちゃ面白いと思いませんか。
「こいつらは…ただものではない」と説明キャラに言葉で言わせるのもアリでしょう。しかも説明キャラが“ある程度”強かったら、それだけで読者には“分かりやすい物差し”となるので「あのキャラが強い!って言うなんら…」という効果も期待できますよね。
ただ冨樫は中々“それ”を使わない。過去のエピソードや説明キャラに、状況説明の類をさせる時がもちろんありますが、戦いの前でいちいち過去エピソードに入るような多用はしないのです。
ただ今回は『キルアのお父ちゃんとおじいちゃん』なので、読者は“既に強いことは知っている”状態です。この情報だけの状態で『絵(本体)』を加えるとどうなるのか?
お待たせいたしました!冨樫はどのように物語に尋常ならざらぬ強さと、異質な緊張感を出すのかを見てみましょう。

【ハンターハンター】『有象無象』 | ファンタジー方面にはいかずにリアルよりのシーンで立ち居振る舞いを際立たせる魅せ方。

(ハンターハンター ©冨樫義博/集英社)

形のあるものと形のないものすべて、あるいは世の中のあらゆる事物を指す言葉である『有象無象』。
この言葉に『人』をくっ付けて使うと…雑多で取るに足りない人々という意味合いになります。
そうです!ご覧ください。冨樫が最初にしたことはシルバとゼノを『有象無象の人々の中』にぶち込んだのです。

例えば…この作品が“もしも”ファンタジーよりならば、シルバとゼノの体の大きさを“あえて”もっと大きく見せて描いていたでしょう。
しかし、それをやるとハンタの世界ではシラケてしまう…というか逆効果です。
逆に“あえて”忍ばせるのです。むしろ“あえて”紛れ込ませるのです。
あの!ゼノの小ささを見てください。もう本当に孫の顔を見に来たおじいちゃんの装いですよ。

この有象無象の中で、この2人を普段通りに動かすだけで「なんだか…他と違う」と十分に思わせるモノを持っているのです。

(ハンターハンター ©冨樫義博/集英社)

冨樫のキャラクターの動かし方は本当に自然です。
ただの顔合わせであるこのシーンは、ともすれば単調な物語になるのですが…緩急をつけたセリフまわしとカメラアングルで“私自身もその席に座っている”ような錯覚も味合わせてくれるのです。
そもそもあの!意識高い系オラつき集団『幻影旅団』を抹殺する依頼です。
依頼する方であるマフィアが「何か欲しいものがあれば言ってくれ」と、全面協力を惜しまない感じが“既に”切羽詰まった緊張感を最初に出しているのです。

さぁスタートです。
有象無象の末端であろう2人に顔が良く見える位置までアップにした状態で「そのビルの詳しい見取り図を用意してくれ」と喋らせ、続けてもう一人に「周囲の地図もだ」とマフィアに物怖じしない姿勢を見せながら喋らせる。
殺し屋の世界を知らない私自身は「あぁ、そりゃまぁ必要か」と思います。

次に部屋の上からの全体が見える“引きのアングル”で、続けて「連絡の際の呼び名を決めておこうか」と見取り図を請求した輩がまるでこの場の主導権を握ったかの如く提案するのです。
引きのアングルを見せながら「オレはブルーと呼んでくれ」や「……オレはレッドがいい」という感じに、他の殺し屋も賛同し“話を聞いている雰囲気”を知ることになります。
よって私は「あぁ、なんだか映画っぽくなってきていいなぁ」とワクワク感が増すのです。
ちなみに「……オレはレッドがいい」の人。最初に「……」の時間をかけてちゃんと好きな色を考えている描写って…かわいいですよね。

その温度のまま行くと思いきや、ゼノが「まるでゴッゴじゃの……」とボソッと言うのです。
この一言で、今までの空気が一緒に変わるのです。
“映画みたいでいいな”と言った私の考えが、一気に幼稚な発言に変えられてしまったのです!!これは恥ずかしい。

さっきまで場の主導権を握っていた輩が「ゼノって何色だ?」とゼノに聞き返すという、まだ“場の雰囲気が変わったことに気がつかない”という小物感の演出もいいですよね。
シルバが「オレの名を呼ぶのは自由だが 指図は受けない」と言った後、続けざまに「オレ達のやり方でやる」と言われた3人のあっけに取られた“ポカーン顔”をご覧ください。その隣には4人目である私の“ポカーン顔”も居ますからね。

いかがでしょうか。この美しい流れの演劇。
たった1ページくらいの文量(作劇)で、声を荒げるわけでもなく、急に武力行使するわけでもなく、ただ“いつも通りの殺しの手順”を淡々と推し進めるだけで、ここまで『格の違い』を魅せつけてくるのです。

最後に

気がついたら…戦いのそぶりも見せない状態なのに、もう!ゾルディック家から目が離せなくなるのです。
これで大分“熱”が高くなったと思ったのに…冨樫は“もっと作品の熱”を気持ちよく上げてくるのです。
だから大好き。

ではまた。